少し前、2本の映画を観ました。
一つは『PERFECT DAYS』
渋谷の公共トイレの清掃員である中年男性の暮らしを描いた作品です。
渋谷区にある17ヵ所の公共トイレを様々なクリエイターや建築家のもと新しく改修し、従来の負のイメージを払拭して美しい日本を発信しようという日本財団のプロジェクトがあり、そのPRムービーの監督にヴィム・ヴェンダースが招かれました。
当初は短いオムニバスを予定していたそうですが、最終的に長編が書き下ろされ、それが『PERFECT DAYS』です。
清掃員の男・平山は、風呂無し・洗濯機無しのおんぼろアパートに一人で暮らしています。毎朝夜明けとともに起き、まだ薄暗いうちから仕事場であるトイレへ向かいます。何ヵ所か回り清掃をします。夕方明るいうちに仕事を終え、銭湯でさっぱりしてから、地下鉄構内の居酒屋でサクッと飲み食いして帰り、畳に布団を敷いて文庫本を読みながら眠りにつきます。翌朝も同じ時間に起き。
休みの日はコインランドリーと古書店、趣味のフィルムカメラの現像、足を伸ばしてお気に入りのママがいるスナック居酒屋へ…。
おんぼろだけれど平山の手入れが行き渡ったアパートはとても住み心地が良さそうで、趣味の本やカセットテープのコレクション、小さな植物たちが並んで、平山の生きるよろこびや世界への眼差しそのまんまが輝いています。
もう一つの映画は『魂のまなざし』
原題:HELENE
フィンランドの女性画家ヘレン・シャルフベックの画業と人生のある期間を描いた作品です。
1915年、高齢の母親とともに田舎で暮らすヘレンは、画家として世間から忘れ去られていた存在だったようですが、尚も自分の絵を求めて描き続けていました。
そこにある画商が訪ねてきて、ある年下の男性と出逢う中で、ヘレンの人生が静かに変化してゆきます…。
北欧の自然や街並み、ヘレンの質素で古いけれど美しい家、アトリエ。玄関の素朴なステンドグラスや、アトリエの大きな格子の窓。
静かで美しい自然のきらめきの中、毎日絵を存分に描ける環境が本当にいいなぁと思いながら観ました。
どのカットもどこを切り取っても絵になる映画でした。
前置きが長くなりましたが。。
この二本の映画を同時期に観て、
私だったらどちらの暮らしをしたいだろうと考えました。
そしたらね、圧倒的に平山の暮らしがしたい私がいるのです。
平山の暮らしに憧れるのです。
ヘレンの暮らしだったら、北欧の美しい自然や街並み、家や家具、そしてなにより大きな窓のある充分な広さのアトリエ。
私の憧れ全てが揃っているような環境なのに、一体なぜだろう。。
それはね、ひとえに、平山の生きるよろこびを、苦しみや切なさや全てを内包した生きることのよろこびを、何よりも私が欲しているから。
平山が自身が生きる世界を、心の底から愛していて、信頼して、安心し切って委ねているのが伝わってきたから。
平山もヘレンも自身を絶えず見つめ続けてきた人達だ。
そして、平山は、とにかく世界を、自分が生きる世界を心から愛している。
自分を信じ、自分を愛していないと出来ない。
その信頼と愛、生きる安心感が、溢れ出ていた。ダダ漏れでした。
シンプルなんだよ。
シンプルなことなんだ。
そんなふうに思ったのでした。
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絵札どんどん美しく